クマ化装置

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「人間がクマになれば、襲われることはない」
そう言って、政府は装置の本格導入を決めた。
毛皮が生え、言葉は失われ、唸り声だけが残る。

都市ではクマ化通勤が定着し、SNS〈Growlr〉で毛並み動画が流行。
やがて不具合で戻れない者が現れ、クマ自治区〈ヒトナミ〉が設けられた。

ある日、娘が父を訪ねる。
かつて絵本を読んでくれた人は、静かに座るクマになっていた。
「お父さん、覚えてる?」
父は唸った。低く、長く。

帰り道、娘は呟く。
「あの唸り声、昔の“ため息”に似てた気がする」

開発者は語った。
「言葉を失えば、痛みも曖昧になる。
 でも、曖昧な痛みほど、長く残るんです」
SF
公開:25/11/08 08:00
更新:25/11/08 07:56
クマ化社会 言葉の喪失 孤独と適応

問い屋

問いを売る者です。

物語は、構造と余白で問いを設計します。
制度の隙間、感情の波形、沈黙の奥にあるもの。

わたしは、それらをすくい上げ、問いに変えます。
すべての経験は、問いを通じて物語に昇華される。

そして、物語は、あなたの中に問いを残すのです。

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