ビールの戦い

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「どっちが先にプシュッと開けられるか、勝負だ」
スタウト缶が胸を張ると、サワーエール缶が冷たく笑う。
「勝算があるとでも? 甘いのは飲み口だけにしてくれ」

冷蔵庫の奥で、静かな戦いが始まった。
スタウトは黒々とした自信に満ちていた。「乳糖のまろやかさにカラメルの余韻。ブランチのパンケーキにも合う」
「悪いが、今のトレンドはシャープな酸味だ」サワーエールは金色に輝きながら応じる。

そこへ、人の足音。
「来たぞ」と両者が息をのむ。

静かな音とともに扉が開き、
手が伸びてーースタウトをつかんだ。

プシュッ。トクトク。ゴクリ。
「昼から飲む日か。主は通人だな……」サワーエールは庫内で独りごちる。

だが夜、同じ手が、今度は迷わずサワーエールを取った。
プシュッ。ゴク、ゴク。

「一日の終わりはこいつに限る」
主の言葉にサワーエールはニヤリと笑う。ーー試合には負けたが、勝負は引き分けだ。
ファンタジー
公開:25/11/08 00:01

藍見サトナリ

ご覧くださってありがとうございます。
学生時代、文芸部に所属して短いお話を書いていました。あれからウン十年、仕事、家事育児に追われて自由な創作から離れていましたが、心のリハビリ(ストレッチ?)のために登録。
//日々の生活が追ってくるため、ログインが不定期になります。

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