鯉のぼり

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母は鯉のぼりを自作で庭に掲げた。色鮮やかな鯉のぼりは風に揺られ元気よく空を泳いでいた。

誠司は愛されたかった。

「いい子でいてね。」その言葉が誠司にとっては呪縛でしかなかった。
「なんでそんな悪いことするの!」母の奴隷になるしかなかった。

「気が弱いわね。男としてどうなのよ。」
「人を殴ったこともないの?カッコ悪いよ。」

人のいいなりになることでしか愛されないとの価値観が本当の自分の心に蓋をした。

「もういい加減、価値観を押し付けるのやめてくれないかな。」

誠司は人を愛することにした。
「あなたなら出来るよ。器用だし、素直だからね。」
「出来るようになったね。陰で相当努力したんだね。」

誠司は自分の人生を生きることにした。母にかけてもらいたかった言葉を人にかけることにした。

愛されるようになった。

もう今はあの鯉のぼりはないが、誠司の心のなかでずっと泳ぎ続けている。
その他
公開:25/11/04 20:32

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