グビグビは幸せの音

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 グビグビ。
それは僕の幸せの音だった。

 お風呂上がりの父さんがテーブルに座ると、母さんが冷蔵庫から缶ビールを取って、父さんに渡す。
プチッ。シュワー。グビグビ。
「ぷはーっ」
それが、父さんが笑顔になる合図。それからは何を話かけても、ご機嫌なんだ。

 僕は海斗。小学四年生。学校の話や友達の話、今日あったことを父さんに話すんだ。父さんは母さんが作った夕食を食べなから、僕の話を聞いてくれる。母さんは洗い物をしながら、話を聞いている。この時間が、とても満ち足りた時間だった。

 あれから二十年、僕は家を出て妻と一緒に住んでいる。今晩は残業続きだった妻と久しぶりに一緒の夕食だ。
 僕は冷蔵庫からビールを出した。
「ビール飲むでしょ?」
「もちろん」
プチッ。シュワー。グビグビの二重奏。
「ぷはーっ」
二人で作った常備菜をアテに酒盛りの始まり。

 グビグビは僕たち二人の幸せの音になった。
その他
公開:25/11/05 20:41
更新:25/11/05 22:01

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