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真夏の夜、玄関のチャイムがひとつ鳴った。
「宅急便です」
月明かりの下、キャップを目深にかぶった女性が小包を差し出す。
差出人は空欄で、宛名は僕。
包を解くと、銀に光る缶が二本。缶には「しあわせのビール」の文字。
冷気が白い霧となって流れ、夜に溶けていく。
プシュッ。
シュワッ。
泡の音が星のきらめきのように弾けた。
ひと口、グビッ。
ああ、うまい。
胸の奥があたたかく、どこか懐かしい。
「お客様から『手渡しで』とのご指定です」
そう伝えたその声を思い出し、時が止まる。
ルリ……半年前に逝った妹。
なぜ気づかなかったのだろう。
もう一本の缶を両手で抱くと、風がそっと頬をなでた。
「お兄ちゃん、誕生日おめでとう」
かすかな光が揺れ、声が溶けた。
ファンタジー
公開:25/11/05 06:13

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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