コンコンビール

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「今は狐が一匹いてさ」
恋人の話を聞いたはずだが、妙な答えだ。彼は続けて言う。
「飲むと狐に変身するコンコンビールっていうのを買ったんだ。俺、狐にはなれないからさ。彼女が仕事から帰ってきたら驚かそうと思って冷蔵庫に入れてたんだよ。でも、昨日は残業で俺の方が遅くなって、帰宅したら彼女がそのビールを飲んでて。喉をコンコン鳴らして美味しそうに」
「じゃあ今言ってた狐がその彼女……? 元に戻らないの?」
「本来は1時間で戻る」
でもな、と彼は続ける。
「注意書きにさ、『人間に化けた狐が飲むと妖力が失われることがあります』って書いてあったんだ」
「もしかして……」
「そう。彼女、元々狐だったんだ。狐につままれた気分だよ。いや——」
彼は戸惑う私を一瞥した。
直後、ポンと音と共に彼から煙が出た。
やがて、煙の隙間から茶色の毛のずんぐりした獣の顔がニヤリと覗いた。
「狐と狸の化かし合い、と言うべきかな」
その他
公開:25/11/01 08:00
ラベル小説

雪宮冬馬( 広島 )

Yahoo!でのログインがどうもできないので新たに作りました。
20代男。趣味でショートショートを書いてます。
夢は「坊っちゃん文学賞」受賞!

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