6
6

月を肴に飲もうと誘ったが、本当に食べるとは思わなかった。
友人はビールを口に含んでは、月に手を伸ばしてモグモグやっている。そして「うまいんだよ」と悪びれもせず言う。
「やめろ、月はみんなのものだぞ」と制したが、異様な状況に対して、のんきすぎる台詞な気がした。
「だいじょうぶ。月の裏側は地球からは見えない」
なるほど裏側か。たしかに、どれほど食べても月は減らない。
好奇心に負けて、わたしもひと口。
「へえ、日本酒よりもビールに合う感じだ」食べ始めると止まらない。
月とビールの饗宴に酔い、飲み会はお開きになった。
その夜、夢の中で声がした。「地球では裏でも、オレたちの星からは正面だ。代わりにこれをもらうよ」
翌朝、鏡を見てもなにも変わっていなかったが、触ると髪の下――後頭部がなかった。やはり月は、みんなのものだった。
SF
公開:25/10/30 00:02

藍見サトナリ

ご覧くださってありがとうございます。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容