泡宇宙

プロキシマ・ケンタウリbで、海の存在が確認された。しかも、その海底からは絶え間なく虹色の泡が立ちのぼっているという。たちまちこの星の海底は、星間旅行の人気スポットになった。
やがて「プロケン行ってみた」動画があふれ出し、さらには再生数を稼ぐために泡をぐぼぐぼと飲み込む者まで現れた。その者は、カメラに向かってこう言った。
「まったく別の人生を生きる俺が見えた」
そこで、動画はぷつりと途切れた。

巷では、あの泡は量子力学の多世界解釈ではないかと囁かれた。私たちが選ばなかった別の現実が同時に続いていて、それが泡になって海底から噴き出しているのだ、と。

目の前には無数の泡。あり得たかもしれない別の宇宙。
海底深く、僕は酸素ボンベを外し、泡の出どころをくわえた。細い喉へ宇宙が流れ込む。
お金持ちの僕。すべらない僕。ちょっと顔のいい僕。父ではない僕。夫ではない僕。

どこまでいっても僕ではない僕。