除夜の酒

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大晦日限定の、カウントダウン缶ビールを買った。
十二月三十一日、二十三時過ぎ。テレビの年末番組を横目に、缶蓋の中心で回るタブを眺める。チクタク、チクタク、時計の針の音とリズムで回転するタブが、真上を指したところでつまみを起こす。

ゴ――――ン、と缶の中に厳かな鐘がこだました。
蓋の天と地、三十秒間隔でタブを撞く。除夜の鐘も個人消費の時代かと、どこか侘しい反面、自分一人のために行う禊は無上の贅沢にも感じる。
飲み口の奥で反響する鐘を、手応えと耳で味わう事一〇七回。ラスト数分をゆく年の感謝と来たる年の祈りに費やし、その瞬間を待つ。

一月一日、零時。
二礼二拍手一礼のち、満を持して口に迎える。青銅製の梵鐘缶を捧げ持ち、フライングのお屠蘇ビールをいただく。
ピンと張りつめた泡と、澄みきった喉越しに心身が洗われるよう。命の洗濯とはこの事か。

ゴ――――ン。舌鼓が打った、一〇八回目の鐘が響いた。
その他
公開:25/10/30 21:11
クラフトビールコンテスト③

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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