ノスタルジア・ビター

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夏の終わり、僕は実家の蔵で埃まみれのグビグビール製造機を見つけた。
発明家の祖父の遺品だ。メモによると、この機械を使ってビールを泡立て、グビグビ飲むと、幸せな記憶が蘇るらしい。
ビールを入れてスイッチを入れると、黄金色の泡がジョッキに注がれた。
僕はそれをグビグビと勢いよく飲んだ。泡が弾けた瞬間、視界の隅に、ぼんやりとした光景が浮かんだ。
それは花火の音と、金魚すくいの水槽の光。浴衣姿の祖母が幸せそうに笑っている。アイスを買ってもらって喜んでいる幼い僕。あの幸せな夏祭りの夜だ。
僕は涙を拭いながら、泡がなくなるまで何度も飲み続けた。
やがてサーバーは完全に沈黙した。
空になったジョッキを見つめ、僕は気づいた。
祖父の姿がどこにもいない。
このグビグビールが映していたのは、僕の記憶ではなく、祖父自身の幸福な記憶だ。
祖母が亡くなった後、祖父が夜一人でビールを飲んでいた理由が、やっとわかった。
ファンタジー
公開:25/10/30 12:11
更新:25/10/30 12:14
クラフトビールコンテスト

のりてるぴか( ちばけん )

ベリショーズに出没する人。

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