カプセルトイ奇譚

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カプセルトイの音が街角に響いた。
「カシャン」
金属が小躍りし、冷たい缶が取り出し口から転がってくる。覗き込むと、見たことのない金色の缶。ラベルにはただ『ビール』とだけ書かれていた。
「プシュッ」
開けた瞬間、泡が耳元で「しゅわしゅわ」と踊る。
ゴクリ。ひと口。喉を通るたび、世界が微かに泡立ち、ざわめきが静かに消えていった。
カプセルトイの横に、もうひとつのレバーがある。そっと引くと、小さな音。
「ぽこん」
中からまた、金色の缶が転がり出てきた。
「おかわり?」と、缶が微かに声を発した気がした。
二本目を開けると、声ははっきりと「ぷはぁっ!」と叫ぶ。
景色が溶け、空気に舞い上がる。自分も「しゅわっ」と軽くなり、泡に溶け込んだ。
翌朝、街角のカプセルトイの中。目を覚ますと、自分は見知らぬ缶になっていた。
『新商品・人間ビール』
コインが落ちる音。
「カシャン」
また街角に音がしっかり響いた。
ホラー
公開:25/10/26 05:55

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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