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缶を「プシュ」と開けた瞬間、夜空に花火が咲いた。偶然にしては出来過ぎている。僕は、縁側でその泡を口に含みながら、ゆっくりもう一度缶を傾けた。
プシュ、ドン。
泡の弾ける音と空の爆ぜる音がぴたりと重なる。
花火が僕の息に合わせて色を変えた。ごくりと呑み込むたびに赤、青、金。泡のしゅわしゅわが舌で踊るたび、光がひとひら落ちて庭に散る。そこに立つ影ーー去年いなくなった彼女が、ふわりと手を振っていた。
「またそのビール?」と、風にまぎれて声がする。僕は答えられず、ただもう一口。
プシュ、ドン。
花火が一瞬で満開になり、空が泡のように弾けた。
目を閉じると、炭酸が弾けるように記憶が弾けた。夏の夜、祭りの帰り道、同じ音を聞いた気がする。しゅわりと胸の奥で何かが溶けた。
目を開けると、缶は空っぽで、空も静かだった。ただひとつ、最後の花火が夜の底で「ポン」と小さく鳴った。まるで彼女が乾杯しているように。
プシュ、ドン。
泡の弾ける音と空の爆ぜる音がぴたりと重なる。
花火が僕の息に合わせて色を変えた。ごくりと呑み込むたびに赤、青、金。泡のしゅわしゅわが舌で踊るたび、光がひとひら落ちて庭に散る。そこに立つ影ーー去年いなくなった彼女が、ふわりと手を振っていた。
「またそのビール?」と、風にまぎれて声がする。僕は答えられず、ただもう一口。
プシュ、ドン。
花火が一瞬で満開になり、空が泡のように弾けた。
目を閉じると、炭酸が弾けるように記憶が弾けた。夏の夜、祭りの帰り道、同じ音を聞いた気がする。しゅわりと胸の奥で何かが溶けた。
目を開けると、缶は空っぽで、空も静かだった。ただひとつ、最後の花火が夜の底で「ポン」と小さく鳴った。まるで彼女が乾杯しているように。
青春
公開:25/10/28 19:17
1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。
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SHUZO