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その夜、男はベランダで月を見ていた。
グラスの中のビールが、ちょうど月の色をしている。

グビグビ。ゴクゴク。

飲むたびに、空の月が少しずつ欠けていった。
雲のいたずら、おかしな偶然だと思った。
けれど、気づけば半分、やがて三日月。
チビチビと最後の一口を飲み干した瞬間、夜が暗くなった。

男は笑った。「まさか、本当に?」
グラスの底に、白く冷たい泡が残っていた。
男はそっと指先ですくい、舌の上に置いた。
ひんやりとして、わずかに苦い。

そのまま、彼は眠った。

翌朝、新聞にはこうあった。
〈昨夜、満月消失。観測史上初〉

男はあくびをしながら冷蔵庫を開けた。中には、新しい缶ビール。
その銀色の缶の中では、淡い光が揺れていた。
SF
公開:25/10/28 14:32

藍見サトナリ

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