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俺も今日で65。
オヤジが死んだ年齢に並んだ。上京して四十年。
がむしゃらに働いてきたが、今年で定年だ。
気づけば、妻も娶らず親しい友もいない。
帰宅して飲む晩酌が唯一の楽しみだった。
今日の一杯は、オヤジの好きだった「桜ビール」だ。
桜の花びらが缶に描かれている。
ゴクゴクプハー。
うまい!
そう思った瞬間、俺は桜の並木道に立っていた。
不思議に思いながら歩いていると、目の前にベンチが現れ、そこに誰かが座っている。
「…オヤジ?」
それは死んだオヤジだった。
「よう」
「俺、死んだのか?」
俺はオヤジの隣に座ろうとする。
「座るな。まだお前には早い。そのビール、わしにもくれ」
手に持っていた未開封の2本のビール。その一本を渡した。
「誕生日おめでとう。洋一」
カーン。
2人で缶ビールで乾杯。
ゴクゴクプハー。
あれ?オヤジ?
元の俺の部屋。
「祝いに来てくれたのか…。ありがとう、オヤジ」
ファンタジー
公開:25/10/28 00:02
更新:25/10/28 00:58

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