おいしい話

自信満々で挑んだ仕事で、僕は大失敗した。
おかげで社内の笑い者だ。慰めに来る皆はどこか僕を小ばかにした笑みを浮かべているように感じる。
こんな会社、今すぐにでも辞めてしまいたい。
そんな僕を、部長が引き留めた。
「君はアイスブレイクという言葉を知っているか？場の緊張を解きほぐし、コミュニケーション取りやすい空気を作る技術の事だ。キミは優秀でありすぎるが故にどこか皆に緊張感を与えやすかった。だが、今回の失敗で優秀な君でも失敗するんだと皆が気付いた。これはチャンスだ。君は今回の失敗を餌に、もっと人を頼るといい。会社は一人で一つの仕事に取り組む場所ではなく、皆で一つの仕事に取り組む場所だからな。失敗談はアイスブレイクの基本だぞ」
部長のアドバイスを受け、僕は今回の失敗を恥ずかしいものではなく笑いに変えた。
たったそれだけで、二度と思い出したくない記憶が会議の前の鉄板、ウケるおいしい話に変化した。