魔法のクッキー

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里帰り出産で帰省した実家の部屋から、トイカプセルが見つかった。中には星形のクッキーが入っている。

これは、食べれば笑顔になる魔法のクッキー。幼い頃、母が焼いてくれたものだ。小さな私は生地を星形にくり抜いて、オーブンでふくらむのを眺めていた。
たぶんそのとき、その一つをカプセルに入れたのだと思う。

突然、部屋の扉がノックされ、隙間から母が顔をのぞかせた。
「流星群だって。見に行こうよ」

二人で庭の芝生に寝転がる。昔も、こんなふうに星を数えたっけ。お腹を冷やさないように、と母が毛布をかけてくれる。
私はカプセルを夜空に掲げた。

「なにそれ」
「二十年前のクッキー。呪物だよ」
「げっ」
「でも、おいしそう。えいっ」

カプセルを宙に放った。星を閉じ込めたそれは、まるで夜空に落ちていくように、加速しながら上空へと昇っていった。

青い光が、すっと夜空に尾を引き、クッキーの甘い香りがした。
ファンタジー
公開:25/10/23 19:10
更新:25/10/24 19:11

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