音の主

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居酒屋のカウンターに二人横並びで座った。
「久しぶりだなあ。かなり出世したらしいね」
「まあね」彼は気恥ずかしそうにほほえんだ。「これだよ」
エアーでジョッキを呷る仕草をした。
「これ?」
「酒。飲みニケーションてやつ。いまはもう古いかもしれないけど」
「お前、酒飲めなかっただろ」
「確かに昔は飲めなかった。でも」彼は声を潜めた。「代わりに飲んでもらうんだよ」
「代わりにって誰に?」
僕の質問には答えずに店員を呼び、ビールを頼んだ。
「おい、なんなんだよ」
頼んだビールはすぐにきた。彼はゴクゴクと喉を鳴らしながら、半分くらいまで一気に飲んだ。
「大丈夫かよ」
「静かに」
どこからか、でも近くでゴクゴクという音がしてギョッとした。「ぷはー」と満足そうな声が聞こえた。
脂肪がたっぷりのったお腹をさする彼のニヤリとした表情は、社会なんてまだ知らなかった頃の無邪気さを思わせてなんだか懐かしくなる。
ファンタジー
公開:25/10/25 14:11

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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