おいしい話

「今度フランスで行われる飴細工の大会。優勝したら、僕と結婚して下さい！」
１０回目のプロポーズ。とりあえず「はい」と答えておくが、１０回目ともなると感動も喜びもない。今度こそ大会で優勝してほしいと心から願うばかりだ。
間近で彼を応援したいから、私も現地へと行く。とはいえ、彼の邪魔をしてはいけないから半分は観光目的。
歴史ある街並みを堪能し、老舗の洋菓子店に入っては新作を味わう。
会場に到着すると芸術品の数々が私を出迎えた。これらすべてが飴細工だなんて信じられない。
彼はと言えば…まだ苦戦している。細かさに拘れば、強度が落ちる。だが精緻であってこその飴細工。
慎重に慎重を重ね、完成させたそれに審査員も息を飲む。今年ついに、彼が優勝した。
１０年も待たされた。だけど彼と別れようとは一度も思わなかった。
私の心も飴細工のように粘り強いんだ。だからこの１０年、私にとっては飴のように甘い時間だった。