喉越しサウンド

3
3

コッコッコッコックン
小気味よい喉越しサウンドに思わずクスッと笑ったぼくの顔を小首を傾げ覗き込む妻。
「もう三十年だよ、この店、通い始めてから」
「もうそんなに⋯⋯で、何、さっきの笑い?」
「いつもながらの豪快ぶりに惚れ惚れしてさ」
「いい飲みっぷりですねって、初めて会ったとき、あなた声かけてきたのよね。正にこの席で」
「そうだっけ⋯⋯チュッチュ飲んでないで、これ飲んでみてってさ、威勢良かったよな、君」
「そのとき私が何、勧めたか覚えてる?」
「インディアンペールエールだった。奥深い味わいにこれもビールなのかって驚いた。ウィスキー党だったぼくを熱烈なるビール党に宗旨変えさせてくれたことに感謝だよ」
「もっと他に感謝すること、ないの?」
「あはは、君と出会えたことに」 
新しく目の前に置かれたジョッキを手にする。
コッコッコッコックン⋯⋯二人の喉越しサウンドが重なった。
その他
公開:25/10/22 12:02

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容