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彼は住み慣れた家で最期を迎えたいと望み、退院した。

しかし家へ帰った翌日から容体は急変し、三日間眠り続けた。

四日目の朝のこと、突然目を開け、ゆっくり上体を起こすと、にこやかに言った。

「ビール、飲みたいな」

驚いた妻は、慌てて冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッと開けて手渡した。

彼はそれを両手で抱くように持ち、ゴクッゴクッと喉を鳴らしながら飲み干し、満面の笑みを浮かべた。

次の瞬間、空になったはずの缶から、琥珀色の光があふれ、窓の外へ流れ出た。

光は空へと昇り、彼の体もふわりと浮かび上がる。彼のからだは白い泡に包まれながら昇ってゆく。

最後に「ゴクッ」という音がして、彼は十月の青空に溶けていった。
ファンタジー
公開:25/10/21 20:30
更新:25/10/23 07:31

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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