小さく見える大きな拘り

「今年は音に拘ったクラフトビールを作ろうと思う。各自、企画案を出してくれ」
さっそく取り掛かる私。だが上司は苦い顔をするばかりで私の企画を飲んでくれない。
何がいけない？それが分からないまま企画を練っていると先輩に止められた。
９枚のビールの写真を見せらせる。
「この中で貴方が飲みたいのはどれ？」
全部同じに見えるが…これかな？1枚選ぶ。
先輩は頷くと写真を集め、シャッフルし、再び選ばせる。それを９回繰り返す。
「貴方が選んだ写真。９回とも同じビールよ。それも去年の企画で採用された泡に拘ったクラフトビール。全部同じように見えて、貴方はそこに隠された小さな拘りに惹かれているの。今回も同じ。貴方が飲みたいと思う音に拘りなさい」
先輩のアドバイスを受け、私はシュヮシュヮと音のするビールを作った。
シークヮーサー仕込みの爽やかさを感じる、ヮに拘った音。
それに上司は思わず、ごくりと喉を鳴らした。