おいしい話

私がまだ学生だった頃、近所に住む男の子から「結婚して下さい」とプロポーズされた。
しかもちゃんと指輪まで用意しているではないか。おにぎりの形をしたケースの中、おにぎりの具を模した指輪。
それは当時、私が集めていたカプセルトイの景品であり、たまたまその1つを持っていなかった事もあって、つい、プロポーズを受けてしまった。
どうせすぐに忘れるだろう…そう思っていたが、男の子は中々に情熱的だった。本気で私に振り向いて欲しくて、ずっと努力をしてくれた。そんなところに惚れたんだよなぁ…
弟みたいと思っていた男の子。いつの間にか身長も料理の腕も私を越えていた。
最初のプロポーズの時から、私は彼に胃袋を掴まれていた。
今も結婚指輪、婚約指輪の隣にはあの時のおにぎりを模した指輪を置いてある。私にとってはどれも価値は一緒である。
おにぎりと同じだ。見た目だけで、その中に込められた具（思い）を知る事は難しい。