ぬるいビール

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父の喉の動きを見て、彼氏の挨拶は失敗だと悟った。
機嫌がいいときの父は、ビールをスルスルと飲む。喉仏をリズミカルに上下させる。
逆に機嫌が悪い時は、ドシドシと飲む。餅を丸のみするような感じだ。
いまの喉の動きは、明らかにドシドシだ。
父は彼氏が手土産に持参したビールを飲み終えると、空き缶をテーブルの上で潰した。
「これが、お前の地元で有名な地ビールかあ」
彼氏は小さくなっている。
「まだ冷えていないので、口に合わなかったかもしれませんが……」
「なにをぅ」
父がすごんだ。
「お前は自分が選んだビールを信じないのか。本当にうまいビールはなあ、ぬるくてもイケるのだ。本当に好きなら、もっと信じろ」
と、父は私に目を向けた。もしかして、私に言っている?
「絶対に大丈夫だから安心して」
私はぬるいビールを開けると、一気に飲み干した。彼氏も父と一緒にビールを開ける。
父の喉は、リズミカル動き始めた。
その他
公開:25/10/18 07:31

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