両手の行方

祖父が老衰でこの世から旅立った翌日、祖父の体から両手がなくなっていた。
それはまるで引きちぎられたか、嚙みちぎられたかのようで、それを目にした者は嫌悪感を隠そうともせず、妖と交流のあった祖父と、祖父と仲の良かった妖を貶し、罵った。
怒りが沸く。何も知らないくせに！文句の一つでも言わないと気が済まない。
が、私の肩を祖父の手で妖が止める。その姿は私にしか見えていない。
『言いたい奴には、言わせておけ』
異形の存在。手だけが人間のそれなので浮いてしまっている。
祖父の死後、両手を貰う約束をしていたという妖。その両手で何がしたいのだろう？
『自分達、妖には死という概念がない。だから偲ばない。でも、人間は死ぬ。だから偲ぶ。自分達はお世話になった爺さんを、偲びたい』
妖は人間がそうするかのようにそっと両手を合わせ、目を閉じる。
私も同じように祖父に向け、両手を合わせた。そうしたかったから、そうした。