シンクロ・リング

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僕たち夫婦の左手には、お互いの感情が伝わる「シンクロ・リング」が輝いている。喜びも、不安も、リアルタイムで共有できる。おかげで僕らはすれ違うこともなく、常に完璧な理解者でいられた。友人たちは「究極の愛の形だ」と羨んだ。

昨日、妻が事故で死んだ。

突然の別れに、僕は泣き崩れた。胸が張り裂けそうだった。なのに、指輪から流れ込んでくるのは、陽だまりのような、穏やかで温かい感情だけだった。なぜだ? 壊れたのか?
混乱する僕の目に、指輪の説明書の小さな文字が飛び込んできた。

『緊急時、任意で感情を最終状態に固定(ロック)する機能があります』

妻は死の間際、僕を悲しませないために、「幸福」の感情を遺して逝ったのだ。
僕はもう、心から悲しむことさえできない。左手から流れ込む偽りの幸福に、永遠に苛まれながら。
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公開:25/10/13 20:13

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