ある冬の夜に

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人差し指2本分くらいの小さい友は、それまた小さなグラスを私に差し出す。受け取り、ゆっくりビールを注いだ。シュー…一瞬で泡が溢れ、中身はほとんど入らない。

「いいなあ。金色の部分、飲ませてよ。泡は飲んじゃっていいから」恨めしそうな声を聞き、私はスプーンで、先に注いだ自分のグラスから泡を取り、艶かしい液体を掬って彼のグラスに入れた。

あっという間に2杯目。テーブルに座る友は、私のグラスを見上げて言った。
「知ってた?この泡、焚き火の音に似てるんだ」

焚き火?言われて耳を近づけると、たしかにパチパチと、あの爆ぜる音がする。
「泡ばっかりで初めは好きじゃなかったんだけど、この音が温かくて気に入った」

思えば初めてこの友と会ったのは1年前、ソロキャンプをしていた時。マシュマロを焼いていたのを、ジッと陰から見られていたのだ。

…まさか一緒に盃を交わすようになるとはね。
冬の夜は、まだ長い。
ファンタジー
公開:25/10/15 11:50
更新:25/10/15 16:46

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

111.ある冬の夜に

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