大トラ

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勤め始めて間もないビール工場。倉庫で検品中、一つだけ不自然に軽い缶を見付けた。
「何だこれ。不良品か?」
明らかに空っぽの手応え。試しに振ってみるが何の音もしない。缶の破損か、製造時の充填もれか。首をかしげながらプルタブを切る。
「ガオオオ!!」
腰を抜かすほどの咆哮が飲み口から響き渡った。
「な、何だこれ!?」
「大トラになっとるな。今回のビールは上出来だぞ」
耳を押さえて後ずさる僕に、騒ぎを聞きつけたらしい工場長があっけらかんと言った。
「派手な酔っ払いを大トラと呼ぶだろう。自分で飲んだくれるほど旨いって事だ」
不機嫌そうにグルルルと唸る缶を持ち上げ、プルタブをくすぐって製造ラインへ連れ帰る。ビールの泥酔は珍しい現象ではなく、再充填に回して酔い潰すのが鉄則だそうだ。
「ぐおぉぉぉ……すか~」
遠くから響く吠え声は、わざとらしいいびきに変わっていた。
「トラっていうか。タヌキだろ、絶対」
ミステリー・推理
公開:25/10/15 10:57
クラフトビールコンテスト③

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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