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擬音精舎は、この世のあらゆる音が集まる寺院。風の「そよ」、雨の「ぽつ」、焚き火の「ぱちり」。すべてが僧のように列をなし、日夜、響きの経を唱えている。言葉の意味はなく、ただ音そのものが祈りであり、存在の証なのだ。
気づけば、私はそこにいた。缶を開けた瞬間、涼やかな音が宙にほどけていった。泡が小さな光を散らしながら、グラスの底から立ち上っていく。ビールを注ぐたび、「ぷくぷく」、「こぽこぽ」と泡僧たちが涅槃を語り合う。グラスの内側には泡の曼荼羅が広がり、「しゅわしゅわ」と無数の命が生まれては消えていく。
「ぐびり」と一口呑むと、舌を滑り喉の奥で鐘が鳴る。体に溶けていく味わいの中に前世の記憶が溶けていた。呑み干した瞬間、私は泡となり、「しゅうぅ」と消える。
「もう一杯、どうぞ」
その一声で次の誰かが缶を開ける。
「プシュッ」
その音と共に私はまた泡から生まれる。擬音精舎ではビールさえ輪廻転生する。
気づけば、私はそこにいた。缶を開けた瞬間、涼やかな音が宙にほどけていった。泡が小さな光を散らしながら、グラスの底から立ち上っていく。ビールを注ぐたび、「ぷくぷく」、「こぽこぽ」と泡僧たちが涅槃を語り合う。グラスの内側には泡の曼荼羅が広がり、「しゅわしゅわ」と無数の命が生まれては消えていく。
「ぐびり」と一口呑むと、舌を滑り喉の奥で鐘が鳴る。体に溶けていく味わいの中に前世の記憶が溶けていた。呑み干した瞬間、私は泡となり、「しゅうぅ」と消える。
「もう一杯、どうぞ」
その一声で次の誰かが缶を開ける。
「プシュッ」
その音と共に私はまた泡から生まれる。擬音精舎ではビールさえ輪廻転生する。
その他
公開:25/10/14 19:19
更新:25/10/15 19:19
更新:25/10/15 19:19
1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。
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