５９５９

黒く塗りつぶされた缶ビールには、数字が朱色で塗られていた。
『５９５９』これは呪物である。呪物コレクターの俺は依頼者から缶ビールを預かり、保管していた。

抑制できなかった。グビグビ飲んでいる映像が無意識に脳内で反芻して、誘導されるように蓋を開けてしまった。ブシュッ……
穴から血飛沫が噴射。天井を塗り潰すように吹き上がった。
ポタポタと滴る血は、蟻が這う如く体に纏わり泡と化すと、シュワシュワと俺は空き缶の中へ呑み込まれていった。

ゴキュンゴキュンゴキュン……

俺は失っていた意識を取り戻した。どこかの暗闇。彷徨い、見上げると、プルトップの穴から仄かな光が漏れていた。悪夢ではなかった。その穴を覗いたのは瞳のない男だった。そいつは俺を呑み込んだ。あの数字を呟きながら。
男は俺の姿になって部屋をうろつき、洗面所にある鏡の前に立った。

ぷははははは……

俺ではない俺が、笑いながら部屋を出た。