オトナの嗜み

若い頃は気の向くままぐびぐびと飲んでいたビールだが、歳を取った今は気の合う仲間としっとり飲んでいる。
最近どうだ？家族は元気か？息の合った会話が続く。
昔は喧嘩腰で意見をぶつけ合っていた。今は乾杯でグラスを合わせ、腹ではなく泡の立つカチンを楽しむ。
大声で話す必要はない。騒がしい大衆居酒屋の中にあって、お互いの声はよく聞こえる。
枝豆の皿。つまみで頼んだそれを左に回せば周囲のざわざわは鳴りを潜める。
高野豆腐の皿。それを右に回せば仲間の声が大きくなる。
若い内はこんな裏技があるなんて知らなかった。
刺身の皿。それを右に回せば、ビールの声がよく聞こえる。
私達が飲んでいるのは地ビール。シュワシュワと泡がはじける音の中に、さらさらと風の音を感じる。
目を閉じ、麦を育む風景も味わう。この飲み方に雑味はない。
いい歳の取り方というのは、こういう事なのだろう。
皆、いい音人（おとな）になったものだ。