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銀杏並木の下、並々とビールの注がれたジョッキ片手に踊る人へ私の視線は釘付けになった。秋風にカララと翻る落ち葉よりも軽やかなステップ。冷たい風がゴゥゴゥと豪快な音を立てて吹き抜ける度にジョッキを掲げ「乾杯!」と叫び踊り続ける。

パチパチっ…!

気づけば思わず拍手していた。

「ダンス、お上手ですね」

私の言葉にその人は首を傾げる。

「風がビールを飲んでいたから乾杯していたんだよ?」

今度は私が首を傾げる。

「ピューピューは風の涙が流れる音。そよよは風が旅に誘う声。ゴゥゴゥは風の喉越しの音。今日は皆で飲みたいんだって」

ザァァ…
クァ〜クァ〜
ヒックタクヒックタク

言われた瞬間、葉擦れの音や烏の鳴き声、公園の時計が時を刻む音も彼らの喉越しの音だと気づいた。

「君も一緒にどう?」

残念だが今ジョッキはない。鞄から取り出した飲みかけのペットボトルを高らかに掲げる。

「乾杯!」
その他
公開:25/10/12 22:37
更新:25/10/30 11:15
みんなで乾杯しよう!

ネモフィラの旅人( 風の向くまま )

旅人なのでいたりいなかったりします

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