完敗の乾杯

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私の彼は、お酒と言えば『とりあえずビール』な人だ。
初めてバイト先へ飲みに来た時、駆け付けの3杯から合計10回の『とりあえず』を聞かされた。
「すいません、ラストオーダーです」
「えっと、じゃあ……とりあえず君、お持ち帰りで!」
口説き上戸なんてあるんだ。お酒のせいか別の理由か分からない真っ赤な顔に、素面の私はあきれるを通り越して笑ってしまって。
結局彼の熱意に負け、オーケーしたのは通算101回目の『とりあえず』の後だった。

相合傘の帰り道、お馴染みの暖簾を通り過ぎしな、ごくりと鳴らす喉に笑う。
「とりあえず今日もビール?」
「もう『とりあえず』はなし。君の人生、お持ち帰りで」
「承りました。じゃあ、乾杯しよっか」
シュワシュワ弾ける雨音の中、夫婦グラスみたいに触れ合い、気持ちを酌み交わす。
この苦さが人生の味だと、いつか思う日が来るのかしら。
とりあえず、次の乾杯は三々九度になりそう。
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公開:25/10/12 15:48
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創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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