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「このビール、不思議だね」
「大切な事を思い出す味なんですよ」
「…そう」
バーを出て、アパートに帰る。静寂が体を重くする。
『もしもし』
「…俺だけど…有香は元気かなって」
『…この前成人式だった』
久しぶりに聞いた声は柔和だった。それに、元妻の方から会う約束を持ちかけてきた。
夕刻の駅前。そこには、妻に似た晴れ着姿の女性が立っていた。
——俺は娘とバーにいる。
「まさか、電話が娘本人だとはね」
「サークルで演劇やってるから」
グラスを口に運ぶ仕草は妻に瓜二つだ。
「これ、前のと同じ?」
マスターは頷く。俺はビールをごくごくと飲む。
「…連絡したかったけど、怖かった。このビールのお陰かな」
「お客様の想いの強さです」
「ただの酒の勢いでしょ」
有香はグイと飲み干した。
「まぁ、それでもいいや」
もうビールを飲んでも思い出さなかった。次に飲んだら思い出すかもしれない、今日の日の事を。
「大切な事を思い出す味なんですよ」
「…そう」
バーを出て、アパートに帰る。静寂が体を重くする。
『もしもし』
「…俺だけど…有香は元気かなって」
『…この前成人式だった』
久しぶりに聞いた声は柔和だった。それに、元妻の方から会う約束を持ちかけてきた。
夕刻の駅前。そこには、妻に似た晴れ着姿の女性が立っていた。
——俺は娘とバーにいる。
「まさか、電話が娘本人だとはね」
「サークルで演劇やってるから」
グラスを口に運ぶ仕草は妻に瓜二つだ。
「これ、前のと同じ?」
マスターは頷く。俺はビールをごくごくと飲む。
「…連絡したかったけど、怖かった。このビールのお陰かな」
「お客様の想いの強さです」
「ただの酒の勢いでしょ」
有香はグイと飲み干した。
「まぁ、それでもいいや」
もうビールを飲んでも思い出さなかった。次に飲んだら思い出すかもしれない、今日の日の事を。
その他
公開:25/10/12 12:20
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