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 弟は寝坊した。わたしは、弟が見なかった満月のことを、誰かに話したくて仕方がない。自転車に乗って家を出ると、職場の直前で交通事故があったらしい。どこも壊れていない自転車が二台と、どこにも傷がない軽自動車が一台、路肩に停車しており、女性が二人、道路にしゃがみこんでいた。十数名のワイシャツ姿の男がいたが、彼らは、銀河鉄道の軌道みたいに歪んでしまったガードレールを隠そうとしているように見えた。わたしは「事故だ」と思い、そう思ったということを弟に話したかった。
 帰宅途中、中間地点にあるコンビニ前で信号待ちをしていると、ガードレールがビリビリと振動しているのに気付いた。わたしは信号が青になるまでに、その秘密を解かなければ、と思った。                                                                                    
その他
公開:25/10/07 21:30
更新:25/10/07 21:31

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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