ピアニストを撃て!

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 都内。四席しかないオーセンティックバーで、男はいつもどおり仕事をこなした。カウンターの中でマスターはうつ伏せに倒れている。演奏の手を止めたピアニストが、その様子を口を開けて見ていた。
 男は一呼吸入れる。仕事を一つこなした時の癖だった。客は誰もいない。後はそこのピアニストを片付けるだけ。男は銃口を向けた。
 銃声とともにピアニストの頭がのけぞった、とはならなかった。男は撃たなかった。恐怖に震えるでも、命乞いをするでも、反抗的な様子でもない。ただ間延びしたピアニストの顔に、男の戦意が喪失した、それだけだった。
 男は銃をしまうとそのまま出口へ向かった。扉の前まで来たところで、後ろでガチャリという音がした。男は体勢を低くしながら慌てて振り向く。ジャム。マカロフを持ったピアニストの顔が、みるみる歪んでいった。男の頭の中で声が聞こえた。
その他
公開:25/10/06 23:43
更新:25/10/07 12:07

よたろー

なまけ癖を克服するために、毎日物語を投稿しています。読んでいただけたら幸いです。

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