ビールの音念（おんねん）

近頃ビールに恨まれているらしい。
きっかけは飲み残しの缶ビールを捨てた事だ。半端に開けたまま冷蔵庫の奥で忘れられ、気の抜けた無炭酸ビールをシンクに流した時、排水溝から生ぬるい風が吹いた気がした。

以来、缶のプルタブを切るたびに、ひゅ～どろどろ…と古典的な怪奇音がするようになった。キンキンを通り越して底冷えのする缶を傾ければ、ギシッバキッとラップ音が響きわたる。飲み干して出るのは、プハッと有頂天な吐息ではなく、地の底を這う『うらめしや』だ。おまけに気が抜けきって、とても美味しく飲める状態ではない。

「そりゃ恨まれるって。ビールにとっては魂抜かれたも同然だぞ」
友人に相談すると、良い供養先があるからと、なぜかお化け屋敷に連れて行かれた。
「ビア霊園で飲み放題フェア開催だとよ。メニューに入れてもらえ」
何考えてるんだと思ったが、ビール本体は乗り気らしい。ボウと鬼火をまとった缶が宙に浮かんだ。