公園の老人

曇り空。何もすることはない。いつもの公園のベンチに座る。ざざっと数人が目の前を過ぎる。一人の老人を追うように。
「あのお年寄りを知っていますか？」とささやく声。男がいつに間にかベンチの隣に座っている。
「知りません」
「著名な学者ですよ。一昨日、ノーベル賞を受賞しました」
そんなニュースは知らない。
「新聞を読まないもので」
また人がやってくる。颯爽とスーツ姿の熟年女性。その後にカメラを担ぎマイクを手にした男たち女たちの一団。
「あの女性を知っていますか」
「知りません」
「著名な政治家ですよ。先週、政党党首に選ばれたばかりの」
「テレビを見ないもので」
すると十人ほどがベンチに群がってきた。みんなカメラとマイクを持っている。
ベンチの男は立ち上がりながら言った。
「私は今日、ノーベル賞受賞の通知を受けたんです。ベンチでお休みのところ失礼しました」
男は人に包まれるように行ってしまった。