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ある日突然、紙の声が聞こえた。空耳かと思ったけど、声は間違いなくその時シュレッダーにかけようとしていたA4コピー用紙から発せられていた。
「裏面白紙なんだから、メモ用紙にしてよ」
コピー室の出入口は真横だ。そこはもちろん、上にも背後にも人影はない。わたしは紙をつまみ上げ、おそるおそる話しかけた。
「もしかしていま喋ったのはあなたですか?」
「そうなるね」
回りくどい口調から、めんどくさいタイプの紙だと察した。わたしは慎重に答えた。
「でもあなた、表に個人情報ばっちり印刷されてますよ」
「そこはあれ……ねぇ? うまくやってよ」
「余白0ミリ、エクセルの列と行をフル活用してるので難しいですね」
「普通の紙より高価な再生紙なのに?」
それは知ってるけど、わたしが選んで仕入れたものじゃない。無言でシュレッダーにかけると、紙はちりぢりになっても「こんなのエコじゃない! エゴだ!」と叫び続けていた。
ファンタジー
公開:25/10/09 08:38

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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