ビールに溺れる

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しまった、泡が多すぎた。慌ててビールサーバーの注ぎ口を止めた。
それでも泡は溢れ続ける。もくもく噴き出す白い泉が、グラスの縁を軽々と越す。
啜るだけじゃあ間に合わない。グラスを傾け一気飲み。ぐびぐび下る苦味と、しゅわしゅわ上る炭酸が、喉でぶつかり大渋滞。
それでもなんとか飲み干した。空のグラスを机に置き、ホップ香混じりの息を吐き出す。
「どうした?」「泡こぼしかけた」
振り向いた宴席は、白い海だった。座敷を覆って満ちる泡。島のように浮く卓と座布団。何事もなかったように、上で飲んでる幹事と同僚。グラスからとめどなく白が溢れ、足元の海へ流れ込む。
「泡がどうしたって?」
皆が全身真っ白のまま、泡湧くグラスを傾ける。ぐびり、ぐびりと上機嫌な音。
おかしいのは、俺の目のほうか。
空のグラスを据え直し、ビールサーバーの注ぎ口を開く。白い泡がグラスを飛び出し、天井へぶわり、入道雲のように吹き上がった。
その他
公開:25/10/05 15:41
ビール すこしふしぎ

五色ひいらぎ( 短文は主に旧Twitter、長文はカクヨム等にて )

アマチュアWeb小説書きです。普段はカクヨム等の小説投稿サイトにいます。

アイコン/ヘッダはさかいあい様( X: @riconpi )より個人的にいただいたものです。

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