字ビール

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ある休日、酒好きの友達から字ビールという珍しいものが届いた。その数なんと50缶以上。しかも全て違う種類である。
時計を見ると、午前10時。よし、今日は出掛けないぞと心に決めて、近くにあった缶を手に取った。そこにはただ一字「ぐ」と書いてある。
プハァッ! あぁうまい。
まだ眠気の残っていた身体にスイッチが入る。喉を通る度に血が巡っていくようで、あっという間に飲み干した。
次いってみよう。今度は「ち」の缶を開ける。
う! これは打って変わってガツンと重い。少しずつ、その濃さに慣らしながらちびちび口に運んだ。
「の」は、口に含んだ瞬間親しみやすさが広がった。思わず頬を緩ませながら、のびのびと楽しんだ。
「き」は、鋭い切れ味に背筋が伸びた。なんだか上司に見られているようで、きびきび飲まざるをえなかった。
なるほどと、回りにくくなった頭で考えてみる。でも、果たして他の字は、どんな味がするのやら。
その他
公開:25/10/05 09:36

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』(つむぎ書房)
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテスト特別賞「かぞくしんぶん」
2024  第20回坊っちゃん文学賞佳作「鯉のぼり」
2025 第1回「5分後に意外な結末大賞」特別審査員賞「呑言症」

発表し合える場、とてもありがたいです!

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