飲み干してしまえ

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 あなたを忘れたくて、あなたの服を全部捨ててやった。
 ついでに、あなたの好きだった曲を全部サブスクから消してやった。
 終いにはあなたの連絡先をブロックして、消してやった。
 だけど、それでも消えない。あなたの匂いや声、そして思い出。
 目に見えないものに限って、鮮明に残っている。何というか、とっても皮肉ね。
 太陽が月に恋をしたように、ごく当たり前に、私はあなたに恋をしただけなのに。それだけなのに。
 あなたなんて、消えてしまえば良いんだ。
 消えてしまえ。消えてしまえ。消えてしまえ。ビールの泡のようにすぐに消えてしまえ。
 そしてゴクゴクと飲み干してしまえ。『ゴクゴク』という、その音すらも。

 ……こんな馬鹿な私と一緒に。
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公開:25/10/05 09:23

久保田毒虫( 広島 )

ショートショートマニア兼作家兼虫。
ベリショーズ Vol.13〜14、たびぽえ第9号、夢みたものは 第5〜9号、第1〜2回引きこもり文化祭作品集、ANTHOLOGYB、物書きさんの三日日記、水平線vol.1〜2、星々vol.1〜3 等に作品掲載
X https://twitter.com/dokumu44
note https://note.com/dokumu444

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