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「ねえ、月がきれいだから、月見酒しない?」
 夕食後、珍しくママがそんなことを言いながら、冷えた缶ビールを差し出した。
 ふたりでベランダに出て乾杯した。
「お月様に乾杯」
 と言ってみたものの、見上げれば満月ではない。きれいな三日月でも半月でもなく、太めの三日月。
「今日のお月様、パパに似ているのよ」
「そうなんだ」
 私は写真のパパしか知らない。パパは、私がママのお腹にいる時に、外国の山で遭難したまま帰ってこない。ママによれば、パパはヒマラヤで雪男になったんだって。二十一年も経った今も、ママはそんなことを言っている。
 グビグビッとママが豪快に喉を鳴らしてビールを飲む音がした。
 太った三日月がニヤッと笑った。
ファンタジー
公開:25/10/04 22:54

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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