誕生日の一杯

0
2

今日が誕生日。ようやくお酒が飲める年齢になった。
夕焼けに染まった公園のベンチで、コンビニで買った缶ビールを取り出す。
指先から伝わる冷たさに、気持ちが高鳴る。
「プシュッ」
はじめての音!
恐る恐る口を近付けて、少しだけなめてみる。
「苦い…」
次は一気に「ゴク、ゴク」と喉を鳴らした。
ひんやりとした液体が喉を通り、「シュワシュワ」と泡が弾ける。
「キリッ」と体の奥まで染みわたった。
蝉の残響と赤ら顔の友人たちの笑い声。
風に混じってほのかに香る金木犀。
夏の終わりと秋のはじまりが、喉を通っていった。

あの一杯は、世界が広がる音だった。

今、私は病室の窓から、同じ色の空を見ている。
医者には止められているけれど、もうすぐ終わるなら、最後にもう一度だけ…。
震える手で缶を持ち上げる。
「プシュッ」
「ゴクッ」
音がなめらかに喉を通っていく。あの日の夕焼けが、胸の奥で泡のように弾けた。
青春
公開:25/09/30 11:00

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容