今日は注がずに

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「注がないと泡が出ませんね」
「散歩だからね。それに、缶には缶の良さがある」
 チビチビと飲み、良さというものを探ろうとする。
「泡があると早く飲まなきゃと焦りますが、今はただ味を確かめています」
「君はせっかちだから。今だって私を置いて行かんばかりだ」
 確かに早足になっていた、いつも忙しいから。
「今日くらいゆっくりすればいい」
 ゆっくりと頷き、口に含む。潮風とともに苦みが広がり、喉を通りすぎる。
「随分と街灯が増えましたね」
「足下が見えた方が私は嬉しい」
「そろそろ戻りましょうか」
「私はそんなに酔っ払ってないよ」
「分かりますよ、もう全部飲まれたんでしょう」
「君が飲み終わってない」
 缶を斜めに傾け、グイと飲み干す。炭酸は微かに残っていた。
「……そうだね、このくらいが丁度良い」
 送り届けた後、再び缶を開けゴクゴクと流し込む。
飲み終わる頃、灯台の光が体を掠めていった。
その他
公開:25/10/02 23:23
更新:25/10/05 01:01

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