舞台の魔物

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 初日の公演は大成功だった。演出家とのトラブルによる役者の降板。それにともない急なセリフの変更。劇場入り後も、荷物を積んだトラックが、事故の渋滞に巻き込まれ大幅に遅刻した。予定が押し、結局ゲネプロはできずじまいだった。
そんななか迎えた本番当日。現場の空気はかなりピリついていた。準備不足でみんな余裕がないのだ。俺も、吐き気を催すほどの緊張感は久しぶりだった。
 しかし初日の公演は大成功だった。小さいミスこそあったが、そこは役者同士でカバーをしあい、見事に一つの物語を作り上げた。その日の酒はうまかった。アンケートを肴に、みんな大いに飲んだ。
 そして朝。酒が残った体を引きずりながら、俺はベッドから出た。洗面台の鏡の前に立つと、そこには緊張感のかけらもない顔が映っている。
 そうだ、今日は魔物がいるのだ。
その他
公開:25/10/02 20:48
更新:25/10/02 21:02

よたろー

なまけ癖を克服するために、毎日物語を投稿しています。読んでいただけたら幸いです。

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