弾丸ビール

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 だらしない笑い声が聞こえた。
「どこの阿呆共だ!」
 隊長は怒鳴った。市街戦の真っ只中である。何を笑うようなことがあるか。野営地の瓦礫を蹴散らし、声目掛けて飛んでいく。
 兵士たちは横転したバスの陰にいた。火炎放射器を背負った見知らぬ女と談笑している。隊長は銃を構えた。
「何者だッ……ん?」
 女のバックパックからはチューブが伸びていた。先端の銃部をカップに突っ込み、液体を注いでいる。
 ビールだ。
「彼女はビールの売り子であります」
 怪しい呂律で兵士が言った。皆グビグビとうまそうにビールを呷っている。
 思わず喉が鳴った。
「一杯いくらだね?」
「お代は弾丸で頂いています」売り子がニコッと笑った。
「すると貴様ら……」
「弾切れであります!」
 兵士たちが沸いて、陽気な笑い声が響き渡った。共感するように、敵陣からも酔客の声がした。
「砲弾持って来い」隊長は言う。「全部飲んじまおう」
SF
公開:25/10/01 22:31
更新:25/10/04 10:05

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