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この村に伝わる不思議な花「声花」。
その花は、積もった雪の上に咲き、声を記憶できるという。
貧しい時代には、子供がノート代わりにしていた。
「今年も咲いたな」
氷の花弁が月光を浴びて輝いていた。
『あなた、飲む?』
「お、雪見ビールか」
『はい。トクトクトク』
「いちいち声にだすなよ」
『いいじゃない。私の美声でより美味しくなるわ』
「なにが美声だよ」
一人、手酌でビールを注ぐ。
「トクトクトク……」
『今日も冷えるわね』
「晴彦が一緒に住もうと言ってくれてる。恵子さんも賛成しているそうだ」
『明日はお鍋にしよっか? 何鍋がいい?』
「親父も年なんだからって言われたよ。確かに、最近は腰が痛くてな」
『仕方ないわね。もう一本だけよ』
「でも、君との思い出のこの家を離れたくないな」
『トクトクトク』
振り向き、妻の笑う遺影に杯を掲げた。
「来年もまた聞かせてくれ、声花。妻の美声を——」
その花は、積もった雪の上に咲き、声を記憶できるという。
貧しい時代には、子供がノート代わりにしていた。
「今年も咲いたな」
氷の花弁が月光を浴びて輝いていた。
『あなた、飲む?』
「お、雪見ビールか」
『はい。トクトクトク』
「いちいち声にだすなよ」
『いいじゃない。私の美声でより美味しくなるわ』
「なにが美声だよ」
一人、手酌でビールを注ぐ。
「トクトクトク……」
『今日も冷えるわね』
「晴彦が一緒に住もうと言ってくれてる。恵子さんも賛成しているそうだ」
『明日はお鍋にしよっか? 何鍋がいい?』
「親父も年なんだからって言われたよ。確かに、最近は腰が痛くてな」
『仕方ないわね。もう一本だけよ』
「でも、君との思い出のこの家を離れたくないな」
『トクトクトク』
振り向き、妻の笑う遺影に杯を掲げた。
「来年もまた聞かせてくれ、声花。妻の美声を——」
ファンタジー
公開:25/10/01 22:11
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