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亡くなったオヤジの遺品整理をしていたら、「最期通帳」なるものが出てきた。調べてみたらちゃんとした公的機関が発行していて、故人が生前、言葉では伝えきれなかったことを預かっているらしい。料金は一括払いで一万円。遺族が受け取るまで、永遠に保管するそう。割と良心的だな、などと考えながら地図アプリを頼りに指定の場所を訪ねると、都会のど真ん中だというのに、のどかな光景に遭遇した。辺りには頭を垂れた稲穂が一面に広がり、赤トンボが群れをなして飛んでいる。いままさに収穫のときのようで、むかし近所に住んでいた農家のおじさんたちがコンバインを繰り出して稲の収穫をしていた。音のない映像だけの景色はいささか奇妙だったけれど、俺は確かにオヤジの思いを受け取ったと感じた。迷いはぜんぶかなぐり捨てて会社勤めは辞める。来年はオヤジが遺した田んぼを耕すつもりだ。
その他
公開:25/09/25 21:04
☆やコメントありがとうございます✨
作品のイラストはibisPaintを使っています。
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