上司のツトメ

部長は一言で言えば、無害なおじさんだ。
いつも一歩引いたところから私達を見ている。
会話についてこられないか、会話に入るタイミングが掴めない可能性もある。
たまに話しかけられたかと思えば、ブームの過ぎ去った話題。変に若者ぶった言葉を使ってはスベって自滅。なんとも情けない大人である。

私は知らなかった。
部長がいつも一歩引いた立場にいるのには、上司としての理由があった。
以前、仕事でミスをした私を「大丈夫。仕事はチームプレイだ」と励ましてくれた。私のミスを全力でサポートしてくれた。
またある時は大事なプレゼン前に、不安で何度もため息をこぼす私に「心配するな。その企画は絶対に通る」と背中を押してくれた。練習に何度だって付き合ってくれた。
愚痴をこぼせば飲みに誘ってくれるし、肩を落とせば励ましてくれる。
「部下が落としたものを拾うのは、上司の務めだからな」と言い、今日も誰かの何かを拾っていた。