隣人と乾杯!

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お盆しか休みが取れず、夏の真っただ中に
会社近くのアパートへ引っ越した。
その夜、クーラーがない部屋で、
滝のような汗をかきながら
私はひとり缶ビールで祝杯を挙げた。
1本、2本と空き缶が転がり、ほろ酔いになる。
すると「プシュッ」と、隣室からなじみの音が聞こえてきた。
まだ顔を合わせていない隣人だ。
「かんぱーい!」私はつい調子にのって言ってみた。
「乾杯!」確かに隣人の声が聞こえた。
「ゴク、ゴク、ゴク」喉を鳴らす音。
「ぷはぁ」息を吐く音。
壁越しに、同じリズムで響く。
それがなんとも心地よくて、私はすっかり気分がよくなり
次々とビールを空にしていった。

翌朝、空き缶を捨てようと外に出ると、大家さんに会ったので
「隣の部屋の人って、どんな人ですか?」と聞いてみた。
「隣の部屋?半年以上、誰も住んでないよ」と怪訝そうに言われた。

「プシュッ」
今夜も、壁の向こうから聞こえてくる。
ホラー
公開:25/09/30 12:00
更新:25/09/30 15:14

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